サジャボーイズの意味は「使者」— ライオンでも死者でもない
まとめ:サジャボーイズの「サジャ」の意味は?
- 漢字で書くと使者。使いに出される者、伝令という意味です。韓国の死神「저승사자(チョスンサジャ)」の「サジャ」がこれです。
- 日本語話者がまず思い浮かべる死者(ししゃ)ではありません。音は似ていますが、別の単語です。
- 獅子(ライオン)とも発音が完全に同じ。ロゴのライオンと公式ファンダム名「The Pride」はこの語呂合わせから来ています。
- pixiv百科事典など日本語の解説の多くが「サジャ=ライオン」と断定していますが、順序が逆です。意味は使者、獅子はその上に乗せた遊びです。
- ハングルで書くと三つとも「사자」で同じ。漢字が表に出ないことが、この混乱の正体です。
答えは「使者」
Netflix『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』(通称ケデン)に登場する悪役ボーイズグループ、サジャボーイズ。この「サジャ」は漢字で使者と書きます。使節の「使」、特使の「使」と同じ字で、命を受けて出向く者を指します。彼らの正体が韓国の死神=저승사자であることを踏まえると、グループ名は「あの世から遣わされた者たち」とほぼ直訳できます。
問題は、韓国語で「サジャ」と読む漢字が一つではないことです。
同じ音、三つの漢字
| 漢字 | 意味 | 作品との関係 |
|---|---|---|
| 使者 | 使い、伝令 | 正解。저승사자の「사자」 |
| 獅子 | ライオン | ロゴの獅子、ファンダム名 The Pride の根拠 |
| 死者 | 死んだ人 | 日本語話者が最も引っかかる誤読 |
韓国語話者はこの三つを文脈で自動的に切り替えます。「저승사자」と聞けば使者、「사자와 호랑이(ライオンと虎)」と聞けば獅子です。ところが韓国語は漢字を表記しない文字体系なので、外から見ると手がかりが一切ありません。
なぜ日本語では「死者」に見えてしまうのか
日本語には死者(ししゃ)という語が日常語として存在します。ニュースで毎日のように目にする単語です。しかもサジャボーイズは死をモチーフにしたキャラクターですから、音が近い上に意味まで通ってしまう。「サジャ=死者だろう」という読みは、日本語話者にとって最も自然な誤解であり、だからこそ厄介です。
しかし저승사자は死者ではありません。死者を迎えに来る側です。死んだ本人ではなく、あの世の役人のほうです。ここを取り違えると、サジャボーイズというキャラクター設定そのものが読めなくなります。彼らはゾンビの群れではなく、任務のために派遣されてきた者たちで、アイドルという職業はその隠れ蓑です。
韓国語学習サイトのKpediaにも「사자」の項目が使者と死者で別々に立っています。同じ綴りで別語彙として登録されているわけで、混同が起きるのは学習者側の不注意ではなく、言語の構造上そうなっているだけです。
「サジャ=ライオン」説の出どころ
日本語圏でも英語圏でも、「サジャとは韓国語で사자、ライオンのことです」と言い切っている解説が今も流通しています。pixiv百科事典や個人ブログにもこの説明が見られます。
ただ、この誤解には作品側の仕掛けがあります。サジャボーイズのロゴには獅子があしらわれ、公式ファンダム名は「The Pride」——ライオンの群れを指す単語です。表に出ているシンボルはすべて獅子を指しています。つまり獅子は、名前の意味ではなく名前にかけた洒落です。使者が先、獅子が後。この順序を逆にすると、ネーミングの面白さが丸ごと消えます。
저승사자は西洋の死神とは別物です
使者という字が使われている理由は、この存在の性格そのものにあります。韓国の저승사자は死をもたらす存在ではありません。閻魔大王(韓国語では염라대왕)の配下で、寿命が尽きた魂を迎えに行くよう命じられて降りてくる、役人に近い存在です。鎌を持って命を刈り取る西洋のグリム・リーパーとは出発点が違います。巫俗の伝統では通常三人一組で動き、遺族は彼らをただ恐れるのではなく、飯と草鞋を供えてもてなしました。
黒い笠に黒い道袍という現在の姿も、朝鮮時代から続く伝統ではありません。巫俗儀礼や朝鮮時代の絵画に現れる저승사자は、むしろ官服や甲冑をまとった軍人・官吏の姿で、赤い甲冑で描かれた例もあります。私たちが知る黒装束は、1980年にKBSのドラマ『伝説の故郷』を演出したチェ・サンシク(최상식)PDが「韓国的な死のイメージ」を考え抜いて作り上げた造形です。これは別稿で扱うべき話なので、ここでは触れるだけにします。
作品がこの言葉を選んだ理由
監督のマギー・カン(강상아)は、ハントリックスのコンセプト自体を巫俗の儀礼「クッ(굿)」から取ったと語っています。その世界観の中で悪役に付ける名前として、「サジャ」ほど都合のいい単語はありません。韓国人には死神が即座に浮かび、海外の観客には獅子という猛獣のイメージが残り、実体はそのどちらでもない「あの世からの使い」です。メンバーに「ベビー・サジャ」がいるのも、この二重性を遊んだ痕跡でしょう。
ケデンは2026年の第98回アカデミー賞で長編アニメ映画賞と主題歌賞の二冠を獲得し、ハントリックスの「Golden」はBillboard Hot 100で通算8週1位を記録しました。続編も正式に決定しています。それだけ語られ続けている作品のグループ名が、いまだに半分誤訳されたまま流通しているわけです。
整理すると、こうなります。サジャボーイズの「サジャ」は使者。獅子は洒落、死者は誤解です。